《一時の猶予》はなぜデザインされたのか?メタゲームではどのような機能を果たすのか?【指輪物語ー中つ国の伝承 新カードレビュー】


こんな内容の記事です!
  • 『指輪物語―中つ国の伝承』で新たに登場するカード《一時の猶予》について、あれこれ考えてみる記事です!
  • 特別言及されていない限り、フォーマットはモダンを想定した内容となっています。

カード情報

一時の猶予

Reprieve

マナ・コスト {1}{白}
タイプ インスタント
テキスト

呪文一つを対象とする。それをオーナーの手札に戻す。

カードを1枚引く。







白に与えられたカウンター

《一時の猶予》はかつてモダンで活躍していたカウンター呪文《差し戻し》の白版。

差し戻し

インスタント {1}{青}
呪文1つを対象とする。それを打ち消す。その呪文がこれにより打ち消されたなら、それをオーナーの墓地に置く代わりにオーナーの手札に加える。
カード1枚を引く。

本家とテキストが微妙に異なるため、打ち消されない呪文相手にも時間を稼ぐことが可能です。

モダンのメタゲームにおいては《至高の評決》を一旦戻すのに役立つでしょうか。
ビートダウンデッキがアゾリウス・コントロールの《至高の評決》相手に1ターンの猶予を得ることができるのは中々に魅力的ですね。

至高の評決

ソーサリー {1}{白}{白}{青}
この呪文は打ち消されない。
すべてのクリーチャーを破壊する。

《差し戻し》が使用されていた頃のモダンには《対抗呪文》は無く、《マナ漏出》や《否認》《呪文嵌め》《謎めいた命令》など多彩なカウンター呪文が絶妙なバランスでデッキに配合されていました。
現在のモダンにおいては、ライフを切り詰めて《対抗呪文》を唱えればおおよそに脅威に対応することができるため、種類を散らしてカウンター呪文を採用することは稀になりました。

現在メタゲームで見られるカウンター呪文は《対抗呪文》《大魔導師の魔除け》《呪文貫き》の三種が専らでしょうか。
この状況を見るに、「青にはより信頼のおけるカウンターがあるので、ゲームで使用されなくなった《差し戻し》は白に渡しても大丈夫だろう」という判断をWotCが下したとも考えられます。


《対抗呪文》がモダンリーガルになったのは嬉しいものの、打ち消し呪文のダイバーシティが無くなっちゃったのはさみしい気もします。
同じタイプのコントロールデッキでも、打ち消し枠にプレイヤーの色が出てたんだよな…
まぁ《マナ漏出》でも《ルーンのほつれ》でも、やることは同じ劣化《対抗呪文》だったんだけどな。



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メタゲームへのインパクトは小さい

モダンにはフェッチランドがあるため、多少ライフルーズに目をつむればデッキカラーに適わないカードをタッチすることも難しくありません。

沸騰する小湖

土地
, 1点のライフを支払う, 沸騰する小湖を生け贄に捧げる:あなたのライブラリーから島か山であるカード1枚を探し、戦場に出す。その後、ライブラリーを切り直す。

もし《差し戻し》が現環境のモダンにおいて殊更に強力なカードであり、フェッチランドからのショックインによるライフ損失を負ってでも青以外のデッキで採用する価値があるのなら、様々なデッキが《差し戻し》をタッチで採用しているハズで、しかし現実にはそうなってはいません。

これまでに触れた通り、《一時の猶予》は《差し戻し》に対して、
「青以外のデッキで採用するのにフェッチショックのリスクを負わなくていい(≒ライフ3点を温存できる、への耐性が高まる)こと」
これに加えて、
「《至高の評決》など打ち消されない呪文へ対応できること」
の2点の優位性があります。

この優位性…両カードの間にある違い…の大きさが、そのまま《一時の猶予》のメタゲームにおける生息圏の大きさとなるわけですが、自分にはそれがとても大きいとは思えません。

《一時の猶予》がいくつかのデッキタイプで細々と結果を残すことは十分にあり得ると思いますが、《対抗呪文》や《邪悪な熱気》のように大きな存在感を示すカードになることはないのではないでしょうか。

《一時の猶予》は《差し戻し》の存在によって既にカードパワー的に健全であることが保障されているようなもので、《対抗呪文》という強力な対抗馬も存在しているため、メタゲームに与える影響はさほど大きくないだろうと私は考えています。


なるほど、「もう《差し戻し》は強くないから白にくれてやろう」というわけか…
そういう意図もあるとは思いますが、「ゲームバランス上問題ないから」という消極的な理由だけじゃカードは生まれないと思うんですよね。
特に今回のはカラーパイ的にも絶妙な位置にありますし…
うん?問題のあるカードは刷れないだろ?
ゲームバランス上問題ないことはカードを作る理由にはならないのか?
"しない理由"がなくても、"する理由"が無ければ実行しないと思うんです。 リミテッド用のコモンカードはともかくとして…新しいカードをゲームに加えるということは、何か「そうした方が面白い」っていう意図があると思うんですよね。
あぁ、なるほどな。そりゃそうだよな。
しかもわざわざモダンリーガルでカード作るんだから、何か意図があってくれないと困る。



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青なしでメインから「理不尽」に立ちむかえるようにする…という意図

《差し戻し》を評価するにあたっては、「青をタッチすることなく採用できるカウンター呪文が生まれたこと」に注目すべきでしょう。

ボロスカラーのアグロデッキや白単のスタックスデッキがメインから採用できるコンボや全体除去への対抗札が生まれた。そのことに大きな意義があると思います。

そしてもちろん、それはWotCの意図したところなのだと思います。「青抜きでもモダンの理不尽なコンボに対応できるようにしたい」という思いがあったのでしょう。

具体的にどのような形でモダンメタゲームの脅威に対抗できるようになるのか(あるいは対抗できないのか)、後の項にて軽く考察します。


なるほど、青が入ってないデッキでも理不尽ムーブを止めやすくなるわけか。
黒いデッキにはハンデスがありましたが、青も黒も入っていないデッキはフェアなアグロ・ミッドレンジが難しくなっていました。
今度ので普通の白いミッドレンジが組みやすくなるかもしれませんね。
なるほどなぁ…
メタゲームの多様性のためにデザインされたカードなのか、老舗の深慮だな。
多少カラーパイを歪めておいた方がメタゲームに多様性が出る…と言うのは兄弟作のデュエル・マスターズが証明済みですしね。
ただ…まぁ…

※デュエル・マスターズでは、緑に汎用性の高いクリーチャー除去「マッハファイター」を配り好評を得ている。そのほか、近年のデュエルマスターズではあらゆる文明でリソースの補充が容易になった。

ただ??
『モダンホライゾン2』から禁止カードを出したくなくて、メインから採用できる対策カードをリリースしてどうにかならないか試しているようにも見えるんですよね…
あ…そういうのもあるのか…
強烈なギミックを搭載したデッキが幅を利かせている環境なので、カウンターが無ければ相当窮屈なんですよね。
レガシーも《意思の力》ありきで許されているデッキが多いしな。今のモダンは《対抗呪文》ありきになりつつあると…

意志の力

インスタント {3}{青}{青}
あなたは、この呪文のマナ・コストを支払うのではなく、1点のライフを支払いあなたの手札から青のカード1枚を追放してもよい。
呪文1つを対象とする。それを打ち消す。

そうなんじゃないかなと思うんです。3~4ターン目に始動するコンボが多いですしね。
この状況に禁止制限で対応しようとすると、相当な数の高額カードを禁止しなければいけなくなりますし、「それならばいっそ、白にカウンターを渡せば禁止カードを出さなくても風通しの良い環境にできるんじゃないか」という考えに至ったのかもしれません。
あり得るな。
というか、そこまで見越してモダンで《対抗呪文》を解禁したんだとするとWotCの先見の明はすごいよな。
うーん、そうなんでしょうか…
すでに《マナ漏出》があるから《対抗呪文》も許されるでしょ…程度の考えだったんじゃないかな…

マナ漏出

インスタント {1}{青}
呪文1つを対象とする。それのコントローラーが{3}を支払わないかぎり、それを打ち消す。

まぁ…そうかもしれないが、発売から2年が経とうとしている今、『モダンホライゾン2』が相当練られたセットだったことが明らかになってきているしなぁ…
「ジャンド」を筆頭に「アゾリウス・コントロール」、「グリセルシュート」と古いアーキタイプもメタゲームに帰ってきていますからね。
発売当初の惨状から一年以上時間をかけてメタゲームが一周回するような展開は予想できませんでした…



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どう運用するのか?

軽量呪文は打ち消せない

《差し戻し》は、打ち消した呪文を手札に戻すカウンター。呪文を手札に戻されたプレイヤーは、当然手札に戻ってきた呪文を再度唱えようとします。それが軽い呪文であれば、余ったマナですぐさま唱え直せてしまうので軽量呪文は(実質的に)打ち消せないという弱点がありました。

この点において《差し戻し》は、軽量呪文を打ち消すことで相手ライブラリトップに弱いカードを固定できた《記憶の欠落》や、軽量呪文でも確実に止めることができる《対抗呪文》に劣る呪文でした。
逆に重い呪文相手であれば、手札を失うことなくテンポを取ることができるため輝きます。

同様のテキストを持つ《一時の猶予》も《差し戻し》と同様に軽量呪文に弱く、重量呪文に強いカウンターになることは間違いないでしょう。


「ボロスバーン」や「ハンマータイム」には効きが悪そうだな。
ですね。逆に「独創力」や「イゼット・マークタイド」には効くかも?
《濁浪の執政》は探査コストで墓地を使うから、手札に戻されると結構キツいカードなんだよな。

濁浪の執政

クリーチャー - ドラゴン {5}{青}{青}
探査(この呪文を唱える段階であなたがあなたの墓地から追放した各カードは、{1}を支払う。)
飛行
濁浪の執政は、これによって追放されてインスタントやソーサリーであるカードの枚数に等しい数の+1/+1カウンターが置かれた状態で戦場に出る。
インスタントやソーサリーであるカード1枚があなたの墓地を離れるたび、濁浪の執政の上に+1/+1カウンター1個を置く。



瞬速クリーチャーと併せて採用し、ビートダウンする

そもそも白いミッドレンジとかでどうやってカウンター呪文を使うんだ?
カウンター呪文を唱えるためにマナを浮かせておくのと、クロックを上げるためにクリーチャーを並べるのとでは矛盾があるだろ。
そこで瞬速クリーチャーを採用するわけです!
インスタントの除去もあるといいかな。
極力2マナ浮かせておいて、マナを使わなかったらターン終了時に瞬速クリーチャーをキャストするわけか…
古典的なテクニックだけどテンポロスはないな。
《激情》に対応しやすくなりますしね!

激情

アーティファクト {3}{赤}{赤}
二段攻撃
激情が戦場に出たとき、望む数の、クリーチャーやプレインズウォーカーを対象とし、4点分をあなたの望むように割り振る。これはそれらにその割り振ったダメージを与える。
想起―あなたの手札から赤のカード1枚を追放する。

《激情》は瞬速持ってないから、瞬速でキャストしたクリーチャーは激情に焼かれずに一回は殴れるわけだな。
ですね。さらに返しのターンの《激情》を《一時の猶予》で差し戻してやればさらに時間を稼げますが、相手のリソースに余裕があれば戻ってきた《激情》をピッチキャストされちゃう可能性もあります。
うーん、ありえる展開だな。
《激情》を出す側と《激情》に焼かれる側とでは、手札1枚1枚のバリューがちがうことが多い。
《激情》を使う側はライブラリトップから2枚目の《激情》を引いたりするが、《激情》による除去に苦しめられるウィニーデッキがライブラリトップから引くのはウィニーだからな。
そうなんですよね。そこが分かっているプレイヤーはアド損を承知で《激情》を連打してきそうです。
こういうところに《激情》というカードの本質的なアンフェアさがあるんだよな…



メインから採用し、相性を見てサイドアウトする

《一時の猶予》は一応は確定カウンター呪文なので、呪文の的には困りません。

広範なアーキタイプ相手に仕事できるためメインから採用しておき、効きが悪い対面ではサイドアウトする運用がいいのではないかと思います。



カスケードには有効なのか?

カスケードデッキは《断片無き工作員》や《暴力的な突発》から《衝撃の足音》を続唱してくるギミックを搭載したデッキ。
続唱された《衝撃の足音》に《一時の猶予》を当ててやれば、当然《一時の猶予》は手札に戻ることになるわけですが、カスケードデッキにおいて手札に来た《衝撃の足音》は「待機」で唱えるほかないので、4ターンの猶予につながります。

もっとも、カスケードは《否定の力》で強引に押し切ってくることもありますし、続唱呪文が8~10枚採用されているので、次のターンにもう一度《衝撃の足音》を続唱されるというパターンもあるので、あまり信頼はできません…

否定の力

インスタント {1}{青}{青}
あなたのターンでないなら、あなたはこの呪文のマナ・コストを支払うのではなく、あなたの手札にある青のカード1枚を追放してもよい。
クリーチャーでない呪文1つを対象とする。それを打ち消す。これによりその呪文が打ち消されたなら、それをオーナーの墓地に置く代わりに追放する。


問題は続唱呪文が8枚以上入っているから一度《一時の猶予》で手札に押し戻しても第二波が来ちゃうってことと、《暴力的な突発》がインスタントだからずっと2マナ浮かせていないといけないってところだな。
…冷静に考えると相当シビアですね。
普通に相性悪いと思うけどな。
素直に《魂無き看守》とか《虚空の杯》を使う方が現実的だろ。
うーん…



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まとめ

というわけで『指輪物語―中つ国の伝承』の新カード《一時の猶予》のレビューでした!
まさかの白のカウンター呪文だったな。
一応《確実性の欠落》という前例はあるんだが…

確実性の欠落

インスタント {2}{白}
呪文1つを対象とし、それを打ち消す。 その呪文がこれにより打ち消された場合、それをオーナーの墓地に置く代わりにそのプレイヤーのライブラリーの一番上に置く。

1マナ帯の厚い今のモダンではやっぱり厳しい性能かもですが、白単の対応力が上がりそうなのは嬉しいです。
面白いカードではあるよな。
こういう渋いカードが入ったセットになるなら『指輪物語―中つ国の伝承』はかなり期待できるな。
ですね!
他のカードにも期待が膨らみます。



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プロフィール

らすとさば
TCGプレイヤーです。主にMTGを安くカジュアルに楽しむ記事を書いています!